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鹿児島地方裁判所 昭和34年(ヨ)85号 判決 1960年4月30日

申請人 坂口栄二 外二名

被申請人 南薩鉄道労働組合 外一名

主文

被申請人南薩鉄道労働組合が昭和三四年二月五日申請人等に対してなした申請人等を組合から除名する旨の処分の効力を、本案判決確定に至るまで停止する。

被申請人南薩鉄道株式会社は昭和三四年三月一日以降本案判決確定に至るまで毎月末日限り申請人坂口栄二に対し一ケ月につき金一五、四五〇円、申請人和田教雄に対し同金二〇、八三〇円、申請人阿久根政行に対し同金一四、七五〇円を仮りに支払え。

訴訟費用は被申請人等の負担とする。

(注、無保証)

事実

申請人等訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その理由として、

「一、被申請人南薩鉄道株式会社(以下被申請会社または会社という)は、地方鉄道業、自動車運送業等を営む株式会社で、被申請人南薩鉄道労働組合(以下被申請組合また組合という)は、被申請会社の従業員中管理職一八名を除くその余の全従業員で組織されている労働組合であつて、申請人坂口栄二は被申請会社の指宿営業所長、申請人和田教雄は同じく総務部庶務課長代理、申請人阿久根政行は同じく鹿児島営業所長であつて何れも後記営業課長に任命されるまで被申請組合の組合員であつた。

被申請会社は昭和三四年一月一九日被申請組合に対し、自動車部の職制改革を行つて五つの地方営業課を新設し、右各地方営業課に課長を置く旨の職制改革案を提示して意見を求め、同月二三日これを経営協議会に附議したが、被申請組合は右改革案に反対し、意見の一致を見るに至らなかつた。しかし、被申請会社は同月二三日付をもつて右改革案どおりの職制改革の実行及びこれに伴う人事の発令をなし、翌二四日申請人坂口を指宿地方営業課長に、申請人和田を枕崎地方営業課長に、申請人阿久根を鹿児島地方営業課長に、各任命する旨の辞令を交付し、申請人等は何れもこれを受領した。ところが被申請組合の執行委員会は申請人等に対し、被申請会社が新職制による地方営業課長を労働協約第五条第一号により非組合員となるものと解しているのに対し、被申請組合としては地方営業課長の如き現業の課長は同号の課長ではないから依然として組合員であると解し、意見が対立しているので、新課長の身分取扱につき右両者の意見が一致するまで組合を通じて右辞令を会社に返上せよとの指示をなし、申請人等はその旨の指示書を同月二五日乃至二六日に受領した。申請人等は会社から辞令を交付された直後組合よりその返上を指示され、会社従業員としての立場と組合員としての立場とに狭まれて進退に窮し、会社及び組合に対して速かに両者間で協議を遂げることを求めて来た。しかるに組合は、同年二月五日臨時組合大会を開催し、申請人等が組合の指示に従つて辞令を返上しないのは組合の統制を乱し組織の団結に反するから申請人等を組合規約第四七条に基き除名する旨の決議をなし、同日付でこれを申請人等に通告し、翌六日会社に対し、右除名処分を行つた旨の通告及び労働協約第四条第二項に基く申請人等の解雇の要求を行つた。

その後、会社・組合間に前記職制改革及び除名・解雇要求の問題につき協議が行われたが、意見の一致を見ず、会社は鹿児島地方労働委員会(以下地労委という)に対し同年二月一〇日斡旋の申請を、更に同月二三日調停の申請を各なしたが、組合は同月二四・二五の両日坐りこみの方法による部分ストを、同月二七・二八の両日鉄道部集改札ストを行い、その間に行われた地労委調停委員会の調停も妥結に至らず、同年三月一日には自動車部の二四時間全面ストが行われようとするに至つた。その直前、右調停委員会は、「会社は今次自動車部機構改革の計画実施を白紙に返すこと、今後会社の機構問題及び非組合員の範囲については労使双方誠意を以て協議する、組合より除名された申請人等の身分については労使双方の協議がととのうまで休職とする。組合は直ちにスト体制を解除する」旨の調停案が示され、労使双方は右休職の解釈の点を除いて右調停案を受諾し、会社は今秋職制改革を一切白紙に返し申請人等の同意のうえで前記辞令を撤回し、かつ申請人等に休職を命じ、組合はスト体制を解いたが、休職の解釈について会社・組合間の協議がその後も整わないため、会社は給料の支払をなすことを決しかねて、申請人等に対し同年三月分以降の給料を支払わないのである。(尤も会社は四月以降毎月生活資金として基準賃銀の六割を申請人等に貸付けている。)

二、然しながら組合のなした申請人等に対する本件除名処分は、左の理由により無効である。

(1)  会社の申請人等に対する本件地方営業課長任命行為は、該地方営業課長は非組合員であるとの見解の下に行われたものであるが、若し然りとすれば、申請人等は右任命行為と同時にすでに非組合員となつたものであつて、その後に行われた本件除名処分は、組合員でない者に対して行われた当然無効の処分である。

(2)  新課長に任命後も申請人等が組合員たる資格を有するものとしても、(イ)組合の申請人等に対してなした本件辞令返上の指示はすでに会社の任命行為が行われ、これを受諾した申請人等に対しその意思を問わず辞令の返上を命ずるものであつて、組合の斗争方法としては異例であり、また、申請人等の自由を極度に束縛するものであり、組合の重要事項に属するから、組合規約第一六条第一二号により組合大会の決議に付すべく、少くとも委員会に付議すべき事項であつて、組合執行委員会の独断でなし得べきものではない。(ロ)また、組合が右指示によつて組合の統制を図ろうとするのであれば、それ相当の理由のあることを要するところ、本件指示書には会社の職制改革が組合員の労働条件の改善維持その他その経済的地位の向上にいかなる影響を与えるかについて何等記載がなく、また申請人等は組合執行委員会からその点の説明を受けたこともないし、また指示書の記載によれば地方営業課長が非組合員となることの点を除けば必ずしも職制改革に反対するわけではないかの如くにも解釈できるのであつて、本件指示をなす理由が不明確である。(ハ)また、会社が組合に対し職制改革案を提示して以来組合執行委員会が右改革案に対していかなる態度・行動方針を立てているかを知らされていない申請人等に対し、辞令の返上を指示することは、会社の要職にある申請人等をして会社従業員たる立場を顧みず組合員としての立場のみを貫くことを求めるものであつて、社会通念上酷に失し、組合の統制権を濫用するものである。以上(イ)乃至(ハ)記載の理由により本件指示は無効であるから、これに従わなかつたという理由でなされた本件除名処分も当然に無効である。

(3)  更に組合規約第四八条は、処罰の種類として警告、譴責、陳謝、権利停止、除名の五種を認めているが、労働協約第四条はユニオンシヨツプ協定を規定しているため、除名された組合員は解雇を免れないのであるから、除名は組合員にとつては極めて苛酷な処罰である。申請人等は従来組合の統制に違反したことは一度もなく、本件辞令返上指示に従わなかつたのは、積極的に組合の秩序を乱したのではなく、また組合としても職制改革を阻止するには辞令返上以外に採るべき方法がなかつたわけではないのに右指示が発せられたため、前述の如く会社従業員としての立場と組合員としての立場との間に狭まれて進退に窮した結果にすぎないのであるから、組合が申請人等を最も重い処罰である除名処分に付したのは甚だしく過酷であつて組合自治の限界を逸脱する無効な処分である。

(4)  申請人等は会社より各別の辞令を各別に受領し、各自の意思に基いてそれぞれ組合の辞令返上指示に従わなかつたのであるから、除名の理由は各人につき別箇であるから、除名は各別の決議をもつて行うべきであるにかかわらず、本件除名処分は申請人等三名につき一括して行われているので、無効である。

三、会社は、前記地労委調停委員会の調停案に基き申請人等を休職としたのであるが、右休職処分は前記の如く申請人等に対する組合の除名が無効であるに拘らず、会社が組合の圧迫に押され、組合との紛争に小康を得るため、便宜的にとつた手段に過ぎず、何等規定に基かずしてなされたものであるから結局申請人等に対する関係においては会社の恣意により権利を濫用してなされたものとして無効と云うべきである。

四、仮りに右休職処分が有効であるとしても、それは労働協約第一八条第三号に定める休職と解すべきではない。けだし、同条同号の休職中は同協約第一九条第二項により無給と規定されているところ、右休職は懲罰的意味はないのであるから、当該組合員が他より収入が得られる場合に限つてなされるべきものであり、本件の如く他より生活の糧を得ることのできない場合に行い得べきものではない。よつて本件休職は労働協約に定めのない場合に該当するものとして労働基準法第二六条の規定に従い会社は休職期間中平均賃銀の六割以上の手当を支払うべきところ、本件の場合は特に会社の帰責事由が大であるから一〇割の手当を支払わなければならないのである。本件地方営業課長宛発令当時の申請人等の基準賃銀月額は、申請人坂口栄二金一五、四五〇円、申請人和田教雄金二〇、八三〇円、申請人阿久根政行金一四、七五〇円である。

五、申請人等は組合に対し除名無効確認の訴を、会社に対しては休職の無効確認の訴をそれぞれ提起すべく準備中であるが、除名による精神的苦痛と解雇の恐怖に脅かされているので、本件除名処分の効力を本案判決あるまでの停止を求める必要性があり、また会社より賃銀相当額の金員支払を得ないときは生活を維持できない窮状にあるので本案判決あるまでその支払を求める必要性を有するものである。」と述べた。(疎明省略)

被申請人訴訟代理人両名は何れも「申請人等の申請を却下する。訴訟費用は申請人等の負担とする。」との判決を求めた。

被申請人組合訴訟代理人は答弁として、

「一、申請人等の主張事実中本件辞令返上指示書の受領の時期が昭和三四年一月二六日に亘つていること、申請人等が会社組合に対しその身分取扱につき協議方を求めたこと、組合が部分ストを行つたこと、同年二月二七日にも鉄道部が集改札業務を拒否したこと、労使双方が調停案を受諾するについて休職の解釈を除外したこと、本件除名処分及び休職処分が無効であることは否認し、その他は認める。申請人等は本件辞令返上指示書を同年一月二五日には見ているはずである。労使双方は調停委員会の調停案を全部受諾したが、その後休職者の取扱につき組合、会社間に意見の対立が生じたので会社が同年三月一日付で調停委員会に意見を求めたところ、右調停委員会は同月三日付で休職者の取扱は組合会社間の協議で解決するよう回答して来たので、両者協議の結果、同月二七日暫定措置として「(一)休職期間中の身分取扱は労働協約の定に基き取扱う。(二)昭和三四年四月三〇日までの生活資金として一月分の基準賃銀の六割を賃付ける。(三)昭和三四年五月中に会社は休職者三名の身分取扱につき組合の意見を尊重し誠意を以て協議して決める。なお、前項貸付金についても同時に協議する。」旨の取決めが行われた。その後同年六月組合は会社に対して協議解決方の申入を行つたが、会社側のなした延期申出に応じて待機している状態である。

二、本件除名処分は次の如き理由により有効である。

(1)  申請人等は本件地方営業課長任命行為によつて非組合員になるものではない。労働協約第五条によれば、吹上公園各課長を除く課長以上の者は非組合員とすることに規定されているが、その趣旨は右協約締結当時の機構の下における課長以上の者のみを非組合員とし、新たな機構改革により新設される課長はこれに包含しない趣旨である。また、労働協約第七四条によれば組合員の労働条件について影響をもつ重要諸規程規則の制定改廃、事業の縮少休止または廃止及び従業員の決定、予算の編成、その他企業運営に必要な事項は経営協議会の協議事項となつているので、本件機構改革の如く、新たに機構を改革し職制を変更することによつて非組合員の範囲に影響を及すような場合は経営協議会において協議すべきものであるところ、本件においては経営協議会は開催されたが協議の成立を見なかつたのである。また、労働協約第一二三条によれば同協約の解釈につき疑義を生じた場合は会社組合が協議して定めることになつているのにかかわらず、本件機構改革の実行及びこれに伴つて生まれる新課長が組合員であるか否かについての労働協約の解釈上の疑義につき協議が成立していない。かような状態の下でなされた本件課長任命行為によつて申請人等が非組合員になることはないので、本件除名処分は組合員たる申請人等に対して行われたものである。

(2)  辞令返上の指示を行うことは労働組合の斗争方法としてしばしば採られている方法であり、本件辞令返上の指示は執行委員会が組合規約第二三条に基き緊急業務の処理、執行の職責を全うするために行つたものである。組合員は執行委員会の指示には従うべきものであり、また、本件辞令返上指示書には本件機構改革に関する団体交渉の経緯及びこれに組合が反対である理由を詳記してあつたものである。更に申請人等に対し執行委員会は指示の理由等を説明したのであり、また、組合機関誌一月二二日号には執行委員会の方針が報ぜられていたのであるから、申請人等は執行委員会の本件改革案に対する態度方針を知つていたはずである。そして執行委員会の斗争方針は会社の本件課長任命前に定められていたのであるから、申請人等を意識して決定したものではなく、組合の統制権の濫用ではない。よつて本件指示は有効である。

(3)  労働組合が団結を守るためには統制力を確立しなければならない。申請人等は再三にわたる執行部員、支部役員等の辞令返上の説得に応ぜず、一月三一日には執行部全員と申請人等との話合の席上の指示に従わなければ除名せざるを得ない旨の申し向けにもかかわらず、二月四日夜の鹿児島支部職場大会においては申請人等を代表して申請人阿久根が執行部を批判し、二月五日臨時組合大会開催直前の執行委員長上舞の最終的説得にも応じなかつたため、やむを得ず除名処分に付されたのであるから、本件除名処分は組合の団結を維持するために必要な処分であつて、組合自治の限界を逸脱するものではない。

(4)  申請人等は本件辞令返上指示に対する反対行動を終始共同してなして来たものであるから、一括して除名決議が行われても何等さしつかえがない。また、一括提案され一括決議されても、実は各別提案され各別に決議されたことに帰するのであつて、一括除名は無効であるという理は全くないのである。

三、本件休職は、労働協約第一八条第三号に規定する休職として有効であり、同第一九条第二項により無給となると解すべきである。

四、本件除名が行われた以上、会社は労働協約に従つて本来申請人等を解雇すべきであるのに、実際は休職とし、かつ賃銀の六割に相当する金員を支給しているのであるから、仮処分の必要性はない。また、本案と同一乃至それ以上の結果を求める本件仮処分申請は許さるべきでない。」と述べた。(疎明省略)

被申請人会社訴訟代理人は答弁として、

「一、申請人等主張事実第一項中組合が申請人等に対し除名する旨の通告をなした事実は知らないが他は認める。

二、本件除名処分は組合規約の手続上有効と解する。而して会社も自主的判断に基き申請人等を解雇するのやむなきに至るかも知れない。

三、本件休職は労使関係の和平回復のため地労委の調停案を受諾した結果その履行としてやむを得ずなされた処分であつて、労働協約第一八条第三号により「特別な事情があつて休職させることを適当と認めたとき」に該当し、右処分は有効であるが、懲罰的意味はない。尤も労働協約第一九条第二項によれば第一八条第三号の休職の場合は無給とする旨定められているが、右第一九条第二項は休職者が他から給与を得られる場合を予定した規定であつて、本件の如き場合には適用はなく、従つて労働基準法第二六条により休職期間中平均賃銀の六割以上の手当を支給すべきであると考える。よつて昭和三四年八月まで各申請人等に対し、貸付名義で基準賃銀の六割相当の金員を支給して来たが、組合の強硬な申入によりその後は支給を中止した。申請人等主張の基準賃銀の金額を認める。本件機構改革は企業経営上の必要に基いて行つたものであり、管理職たる新課長の設置発令は経営権に基き会社の専断でなし得る事項であつて組合と協議する必要はない。従つて本件課長任命行為によつて申請人等は非組合員となつたものである。」と述べた。(疎明省略)

理由

被申請会社が地方鉄道自動車運送業等を営む株式会社で、被申請組合が同会社の従業員中管理職一八名を除くその余の全従業員で組織される労働組合であり、申請人坂口栄二は会社の指宿営業所長、申請人和田教雄は同じく総務部庶務課長代理、申請人阿久根政行は同じく鹿児島営業所長であつて、何れも後記営業課長に任命されるまで組合の組合員であつたこと、会社は昭和二四年一月一九日組合に対して自動車部の職制改革を行つて五つの地方営業課を新設し、各課に課長を置く旨の職制改革案を提示して意見を求め、同月二三日これを経営協議会に付議したが、組合が改革案に反対したため意見は一致しなかつたこと、会社は同月二三日付をもつて右改革案どおりの職制改革の実行及び人事の発令をなし、翌二四日申請人坂口を指宿地方営業課長に、申請人和田を枕崎地方営業課長に、申請人阿久根を鹿児島地方営業課長に各任命する旨の辞令を交付し、申請人等は何れもこれを受領したこと、新職制による地方営業課長の地位につき、会社は労働協約第五条第一号の課長に該当するから非組合員であると主張し、組合は同号の課長ではなく組合員であると主張し、その間に意見の対立が存したこと、組合執行委員会は申請人等に対し前記辞令の返上を指示したこと、申請人等は右指示に応ぜず辞令を返上しなかつたこと、組合は同年二月五日臨時組合大会を開催し申請人等を組合の統制を乱したものとして組合規約第四七条に基いて除名する旨の決議をなし、翌六日会社に対し労働協約第四条第二項により申請人等の解雇を要求したこと、その後右職制改革及び除名解雇要求の問題について会社・組合間に意見が対立し、遂に自動車部の二四時間全面ストに直面するに至つて、地労委調停委員会の示した「会社は今次自動車部機構改革の計画実施を白紙に返すこと、今後会社の機構問題及び非組合員の範囲については労使双方誠意を以て協議する。組合より除名された申請人等の身分については労使双方の協議がととのうまで休職とする、組合は直ちにスト体制を解除する」旨の調停案を労使双方が受諾(ただし休職の解釈の点を除外したか否かについては申請人等・組合間に争がある)した結果、会社は申請人等に対し休職を命じたこと、休職者の身分取扱については会社・組合間に見解の対立があること、会社は同年三月分以降の給料を申請人等に対して支払つていないこと、は何れも当事者間に争がない。

よつて先づ右組合の除名決議の効力如何について判断することとする。

成立に争のない疏甲第一号証によれば、労働協約第一二三条は「本協約の解釈について疑義を生じた場合は会社・組合協議してこれを定める」と規定していることが認められるから、右は協約第五条所定の管理職たる課長は右協約締結時の機構の下における課長に限定する趣旨であり、従つて本件職制改革によつて新設される地方営業課長が同条の規定する非組員たる課長に該当するか否かにつき会社・組合間に解釈上の意見の対立がある以上、会社は右解釈上の疑義を組合との協議によつて定めなければならないと解すべきところ、会社・組合間に右に関する協議が成立していないことは当事者間に争のないところであるので、申請人等は本件任命行為と同時に非組合員になつたものであるからその後に行われた本件除名は当然無効であると速断すべきではない。

成立に争のない疏甲第三乃至第一三号証(ただし第一二号証は一乃至三がある)、疏乙第一乃至二五号証(ただし第五号証は一、二がある)証人羽野瑛、同前田武男、同中間嘉蔵、同市園勉、同面高俊一、同山下豊治、同宮脇良吉、同竹添立見の各証言申請人本人坂口栄二、同和田教雄、同阿久根政行、被申請人組合代表者本人上舞邦治各尋問の結果を綜合考慮すると、本件以前に申請人等が反組合的言動をなした事実はなく、本件辞令返上の指示に従わなかつたのは会社の指示乃至圧力に屈し、あるいは積極的に会社に迎合して組合の秩序を攪乱しようとの意図に基くものではなく、新設の地方営業課長の地位が非組合員であるか否かにつき組合・会社間に見解の対立がある事情その他前記の如く申請人等が会社従業員として相当重要な地位にあること等を種々苦慮した上、会社の任命行為には一応従うのが従業員として至当であると考えるに至つたためやむを得ざるに出たものであると一応認められるのであつて、右認定を覆すに足る程度の疏明はない。そして成立に争のない疏甲第一、二号証によれば、組合規約第四八条は処罰として警告・譴責・陳謝・権利停止・除名の五種を認めており、労働協約第四条によれば組合員を除名された者は解雇を免れないものである事実が認められるのである。(現に組合は申請人等を除名した後直ちに会社に対し申請人等の解雇を求めていることは前記認定の如くである。)右の如き事情の下でなされた本件除名処分は申請人等にとつて酷にすぎ同人等の有する個人的権利を剥奪すること甚だしく、組合の有する統制権の濫用として無効な処分と一応解するのが相当である。もつとも証人前田武男、同竹添立見の証言及び被申請人組合代表者本人尋問の結果によれば、組合執行委員会は申請人等に対し本件指示に従うよう説得を試みた事実が認められるが、組合としては本件指示を強行する斗争手段以外にも、会社に対し反省を促し地方営業課長は組合員であるとの協議の成立を期する手段がなかつたわけではないと思われるから、右事実の存在は前記除名無効の判断の妨げとなるものではない。

次に本件休職処分の効力について按ずるに、前顕甲第一号証によれば、会社・組合間の労働協約第九条により組合員は協約に定めある傷病の外、その意思に反して解雇又は休職を命ぜられない旨、同第一八条により会社は組合員が業務外の傷病により引続き三ケ月以上欠勤したとき、会社の同意を得て組合業務又は外部労働団体の役職員に専従するとき、右の外特別な事情があつて休職をさせることを適当と認めるときに限り休職を命じ得る旨各定められているところ、本件休職については前記の如く休職期間中休業手当を支給すべきか否かについて会社・組合間に争があるが、右休職事由中特別な事情があつて休職させることを適当と認める場合に該当することは右両者間に見解の相異はない。而して会社は右の場合に該当する理由として労使関係の平和維持のため地労委の調停案を受諾した結果、その履行としてなしたものである点を主張するが、前記認定の如き調停案受諾に至つた経緯、右案の内容及び弁論の全趣旨に照せば右調停案は申請人等が組合から受けた除名処分が一応有効であることを前提としていることが明かなところ、右前提たる除名処分が前認定の如く無効である以上、本件休職が仮令調停案受諾の結果であつたとしても、申請人等としては何等問責せらるべき事由はなく、会社としても同人等を休職処分に付すべき正当の理由を欠くことゝなり、休職させることを適当と認める場合に該当しないものと云うべく、結局本件体職処分は前記労働協約に違反し、何等根拠なくしてなされた無効のものと断ぜざるを得ない。

次に本件仮処分の必要性について検討するに前記の如く労働協約第四条によれば組合より除名された従業員を会社は解雇しなければならないのであるからこの侭放置するときは申請人等は解雇の脅威にさらされることゝなるのみならず、会社が申請人等に対し昭和三四年三月一日以降の賃銀を支払つていないこと及び申請人等の基準賃銀月額がそれぞれ坂口栄二金一五、四五〇円、和田教雄金二〇、八三〇円、阿久根政行金一四、七五〇円であることは当事者間に争がなく、申請人坂口が妻子二名を、同和田が同六名を、同阿久根が同二名を扶養していることは申請人等各本人尋問の結果により明かであるから、申請人等が現在その生計維持にも困窮すべき事情に在ることは容易に察知し得るところである。尤も昭和三四年三月以降毎月被申請会社が申請人等に対し基準賃銀の六割に相当する金員を貸付金として支給していることは当事者間に争がなく、右金員の支給も同年九月以降停止していることは被申請会社の自認するところであるが、右金員は賃銀又は休業手当ではないので、何時にても返済を求められる可能性があるので、これがため右期間の仮処分の必要性を部分的にも否定し去ることはできない。尚被申請組合は本件仮処分申請は本案と同一乃至それ以上の結果を求めるものである旨主張するが、本件仮処分申請は組合に対し最終的に除名処分の無効確認を求めるものではなく、暫定的にその効力を停止すべきことを求めるものであるから、本案判決と同一乃至それ以上の結果を求めるものでないこと論をまたないところである。よつて本件仮処分申請は何れもその必要性あるものと云うべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 池畑祐治 高林克己 定塚英一)

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